電話に出たのは当の父親。
「調子はどう?」
「おー、元気やで」
「爆弾抱えてドキドキしてるの?」
「ドキドキなんかしてへん。そんなん考えても仕方ないやろ」
「テニスはしてるん?」
「あー、しとるで。昨日も行って来た」
「怖くないん?」
「怖がっとってもしゃあないやろ。それに適度な運動はええらしい」
「ママは? ママは落ち込んでないん?」
「落ち込んどるんかもしれんけど、今日もワシを放って朗読に出掛けて行ったし、栄養ドリンクのひとつも買ってくれるわけやなし」
「あはは・・」
「お前だけやで、電話して来てくれるんわ。RもYも何も言って来うへん」
「そうなん?」
「そうやで」
「そうなんか。そやけど何時死ぬかわからんってなったら、やっぱり、だんだん整理とか始めてるん?」
「せぇへん、そんなもん。今までと一緒じゃ。何もせぇへん」
「えー、遺言とか書かへんの?」
「書いたかて、譲るもんがあらへんがな」
「え、家があるやん」
「家はかぁちゃんの物やし、Hもおるがな」
「じゃあ、マンションがあるやん。あれジョダコに譲るって遺言に書いてよ」
「あほか、あれもかぁちゃんのもんや」
「ママが死ぬまではママの物でいいからさ、ママが死んでからでいいから」
「そんなん知らんがな。それやったら、かぁちゃんに言うておけ」
「わかった、ママに言うわ。それよりママがお葬式のこと心配してたから、めっちゃいいアイデア思いついてんけど」
「何や?」
「あのね、この際、パパとママの合同生存葬をするねん。そしたらみんな予定を組んで参加できるし、二人とも死んでからも思い残すところないでしょ?」
「ほんなら、お前が帰って来てやってくれ」
「ちゃんと予定組んだら、みんな集まれるやん。ええでしょ?」
「ええけど、死ぬことに関してはどうでもええわ。好きなようにやってくれ」
「で、今日は何するん?」
「おぉ、今日はうちに碁を習いに生徒が来る日や」
「生徒って、若い女性でしょ?」
「若いもんか」
「70代の若い女性って聞いてるで」
「そうや、70のおばんばっかりや。覚えが悪ぅて、ほんま、なんぼ教えてもいっこも覚えよらんから、腹立って血圧ばっかり上がるわ」
「ええやん、女性に囲まれて、楽しいやん。ほな頑張って」
「おぉ、お前も頑張れよ」
ということで電話を切りました。
電話を切ってしばらくしてシナコから電話。
「ママ、大丈夫?」
「何が?」
「だって、自分のお父さんが死ぬかもしれないって・・・」
「普通はそうなんかなぁ。自分が死ぬかもしれないって言われたら、めっちゃ怖いかもしれんけど、自分やないからなぁ。ママは冷たいんやろうか? シナコはママが死ぬって知ったら、落ち込む?」
「・・・落ち込むんじゃないかなぁ・・・」
「そんなもんかな・・・」
キニコからも、あのメールを送ってすぐに電話があり、ちょっと涙声。
「おじいちゃんのこと読んだよ・・・」
「しかたないよね。だから、なるべく機会があったらメールとかしてあげて」
「わかった」
と言う事で、普段はドライな娘たちだけれど、私よりはそこそこ心優しい人間のようでよかった。
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